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東京高等裁判所 平成11年(行タ)16号 決定 1999年5月11日

東京都千代田区<以下省略>

申立人

公正取引委員会

右代表者委員長

根來泰周

右指定代理人

粕渕功

西谷敏一

海老原明

広島市<以下省略>

相手方

広島県石油商業組合広島市連合会

右代表者会長

右代理人弁護士

藤堂裕

松島道博

寺上泰照

楠森啓太

宮川裕光

主文

申立人が平成9年6月24日にした審決(平成6年(判)第2号)について、相手方がその執行を免れるために供託した保証金(300万円)のうち金150万円を没取する。

理由

一 本件申立の趣旨及び理由は、別紙「保証金没取の申立書」写し記載のとおりであり、これに対する相手方の意見は、別紙「意見書」写し記載のとおりである。

二 申立人は、平成9年6月24日、相手方に対し、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律54条1項に基づき違反行為の排除措置等を命じる審決(平成6年(判)第2号)をしたところ、相手方は、同月26日、東京高等裁判所に右審決の取消しを求める訴え(当庁平成9年(行ケ)第151号)を提起するとともに、同年10月23日、同法62条1項に基づいて右審決の執行免除の申立てをし、同年12月19日、保証として金300万円を供託することにより右審決が確定するまでその執行を免れることができる旨の決定を得て、平成10年1月26日、右金300万円を供託したこと、右審決取消請求事件は、同年9月25日に開かれた第1回口頭弁論期日において弁論が終結されたが、相手方は、平成11年4月7日に右訴えを取り下げ、同月9日に申立人がこれに同意したことにより右審決が確定するに至ったこと、以上の事実は記録上明らかである。そして、本件事案の内容、右訴えの取下げに至る経緯等を斟酌すると、同法63条により、相手方の供託した保証金のうち金150万円を没取するのが相当である。

よって、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 荒井史男 裁判官 大島崇志 裁判官 山口博 裁判官 小林正 裁判官 井口実)

別紙

保証金没取の申立書

東京都千代田区<以下省略>

申立人

公正取引委員会

右代表者 委員長

根來泰周

右指定代理人

粕渕功

西谷敏一

海老原明

広島県広島市<以下省略>

相手方

広島県石油商業組合広島市連合会

右代表者会長

平成11年4月14日

申立人指定代理人

粕渕功

西谷敏一

海老原明

東京高等裁判所第3特別部 御中

申立ての趣旨

申立人が平成9年6月24日にした審決(平成6年(判)第2号)につき、相手方がその執行を免れるために供託した保証金(300万円)の全額を没取するとの裁判を求める。

理由

一 相手方は、申立人である公正取引委員会が平成9年6月24日に行った平成6年(判)第2号審決を不服として、平成9年6月26日、東京高等裁判所に対し、右審決取消請求の訴えを提起するとともに、その執行を免れるため、平成10年1月26日同裁判所の定める保証金として金300万円を供託した。その後、相手方が平成11年4月7日この訴えを取り下げ、当委員会が同月9日これに同意したので、右審決は確定した。

二 当委員会の審決は、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律第58条に規定されているとおり、審決書謄本が被審人に到達したときにその効力を生じ、確定前においてもその執行力を有するものであり、その効力は同法第97条の規定に基づく審決違反に対する過料により担保されているが、これは、同審決の命ずる被審人の違反行為を排除する措置はその性質上迅速に実現されるべきであるとの公益上の要請があるからである。他方において、右審決が被審人からの取消請求訴訟の結果取り消されることがあり、この場合には長時日経過後に審決が取り消されても既に審決の内容に拘束されていた被審人にとって原状を回復することは極めて困難であるか又は不可能であることが予想される。そこで、これらを調整するため同法第62条第1項の規定によって供託による執行免除制度が設けられているのである。したがって、同法第63条の規定に基づき審決が確定した場合には、特段の事情がない限り、保証金の全部を没取することが制度の目的に合致する。

けだし、もし保証金を没取しないということになれば、審決取消請求訴訟の経過いかんにかかわらず、相手方は審決確定まで審決の執行を免れるという利益を受けるばかりか、保証金の返還をも受け得ることとなり、不当に利益を受ける結果となって、安易な執行免除の申立てを防止することができなくなるからである。

本件の場合、口頭弁論の終結後に審決取消請求訴訟が取り下げられたものであるから、結果として相手方は理由のない審決執行免除の申立てをしたと同じことになったのであり、また、本件について保証金の全部又は一部について返還を認めるべき特別の事情も見当たらないので、その全部を没取すべきである。

別紙

平成11年(行タ)第16号 保証金没取申立事件

申立人

公正取引委員会

相手方

広島県石油商業組合広島市連合会

意見書

平成11年4月28日

相手方代理人

弁護士

藤堂裕

松島道博

寺上泰照

楠森啓太

宮川裕光

東京高等裁判所 第3特別部(民事) 御中

一 本件で没取を求められている保証金によって執行を免除されていた、相手方を被審人とする申立人の平成6年(判)第2号審決(以下、本件審決という)は、平成11年4月7日、本件審決の取消を求める御庁平成9年(行ケ)第151号審決取消請求事件(以下、本件訴訟という)の取下げにより確定したものである。

申立人は、相手方が本件訴訟を口頭弁論終結後に取り下げたことの一事をもって、理由のない執行免除の申立を行なったものと断定し、且つ、保証金の全部若しくは一部の返還を認めるべき特段の事情も存在しないと主張している。

二 しかし、本件については、勧告直後の平成5年12月27日、相手方はその会員に対し、それまでも普通揮発油の小売価格は会員が自主的に決定してきたことを確認し、その後も価格は自主的に決定すべきものである旨通知を行なって、競争状態を確保する措置をとってきていたところであって(この点については御庁平成9年(行タ)第28号審決執行停止申立事件の記録中に明らかである)、本件執行免除による競争状態回復の遅延は事実上存在していなかった。

また、本件訴の取下げにあたっては、相手方から裁判所に対し、取下げの趣旨に関する平成11年2月19日付の相手方代表者名義の上申書を提出して、ご理解を得ているところである。

右に述べた点については御庁に顕著な事実であると思料するところ、これらを考慮すれば、本件執行免除が保証金の没取を相当とする執行の遷延でないことは明らかであり、申立人がいう「特段の事情」が存する場合に該当する。

三 以上のとおりであるから、相手方は本申立について、保証金の没取を行なわないとの判断を含む、然るべき決定がなされるのが相当と思料する。

上申書

一 私は広島県石油商業組合広島市連合会(以下「当連合会」といいます。)の会長として、貴庁平成9年(行ケ)第151号審決取消訴訟(以下「本件訴訟」といいます。)を取り下げるに当たり、当連合会は以下のことを明確にしておきたく、ここに上申致します。

二 まず、当連合会が本件訴訟を取り下げることにしましたのは、以下の理由によります。

第一に、本件訴訟において対象となっている平成4年8月のカルテル問題の発生から既に6年以上が経過し、私達のような小売業を含む石油産業を取り巻く経済的環境が、いわゆる規制緩和政策等により激変し、平成4年当時とは全く異なるものになっていること

第二に、右のような市場の環境の変化等により当連合会の組織も実質的には解散しており、従前のような組織としての実態がないこと

第三に、当連合会の構成事業者について、平成4年当時と現在では変化し、個々の事業者の本件訴訟についての認識も変化していること

第四に、本件については、最終的には個々の事業者の責任問題になるところ、このことを含めて本件に対していかに対応するかの判断について、私や弁護士に任せる旨の個々の事業者からの委任状が約86%集まったこと

これら諸般の事情等を総合的に考慮した結果、最早、本件訴訟を継続して争い、解決を遅らせることの意義はなくなっているのではないかと判断したことによります。

三 次に、当連合会が本件訴訟の取り下げをしましたのは、右の理由によるものであって、決して本件訴訟の対象となっているカルテル行為を当連合会がしたことを認めたということではありません。当連合会としては、あくまでも本件訴訟の対象となっているカルテル行為はしていなかったものであることを重ねて申し添えさせて頂きます。

このことは、公正取引委員会による勧告が行なわれた直後の平成5年12月27日に、当連合会の会員に対し、それまでの間も普通揮発油の小売価格は各会員が自主的に決定してきたことを確認し、その後も同様に価格は自主的に決定するものであることを改めて周知徹底したこと、これまで一貫して当連合会が審決及び本件訴訟を争ってきたこと等からも御賢察頂きますようお願い致します。

四 以上の通りでありますので、この点御理解の程宜しくお願い申し上げます。

平成11年2月19日

広島県石油商業組合広島市連合会

会長

東京高等裁判所 第3特別部 御中

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